秘密の価値

 特定秘密保護法という法律が参議院本会議で可決されたそうです。国家が秘密にしようと決めた情報を漏らすとタイホされるというあれです。法律の政治的な意義はよくわからないのですが、要は、秘密を知られたくない人と、秘密を知りたい人とがいてもめているということなのだと思います。

 秘密という言葉にはなんとなくわくわくする響きがあります。物語でも、秘密ものというジャンルがあります。今勝手にそう呼ぶことにしました。登場人物の中に秘密を抱えている人がいて、物語の過程でそれが明かされるというものです。最近見た映画にもそういうのがありました。過去に人を殺した秘密を持っている人が主要な登場人物で、その人をかばって刑務所に入った人がいるのですが、主人公がその人たちの過去のできごとを勝手に暴いて、ひとりで満足したという話でした。個人的には、だれも得しないのにあいつが余計なことしただけだな、と思いました。基本的に物語の主人公とは余計なことをするものです。

秘密を持つ理由

 秘密が存在するということは、ある情報を知られたくない人と、知りたい人がいるということです。だれも知りたい人がいなければ、それは秘密ではなくてただのプライベートな情報です。ときどき「アマゾンの奥地に生息する謎の生命体ほげほげの秘密を解明する!」みたいな記事を目にしたりしますが、知られたくない人はだれもいないのでこれも秘密ではありません。

 人が秘密を持つ理由は、だいたいこんなふうに分類されます。  

  • 情報が知られることで、自分や身の回りの人に不利益になる
  • 社会的に影響が大きい
  • 守秘義務など、契約上話すことが禁じられている

 一方で、秘密を知りたがる理由はというと、これはその秘密が自分にとって有益な情報であるという場合と、単に知りたいだけという場合があるように思います。前者は、たとえば競合企業の機密情報を知ることでビジネスが有利になったり、政府に原発関連の情報を公開させることで安心して生活できるとかそういうものです。後者は矢口真里さんが不倫でどうのこうのっみたいなので、別にそれを知ったから得をするわけではありませんが、知りたがる人は大勢います。

秘密の需要と供給

 感覚的には、男性よりも女性のほうが、都会よりも地方のほうが、個人的な秘密を抱えている傾向が強いように感じます。それはたぶん、個人的なことを知りたい人が多いからだと思います。誰々さんの何々くんはどこの中学にいったみたいなことを知りたがる人がいて、それが噂になると困る人がいるので、秘密が生まれます。都会ではわりと自分のことでいっぱいいっぱいで、隣のマンションの田中さんの長男が毎日家で自作のラップをニコニコ動画に投稿してるみたいなことはどうでもいいので、秘密にする必要もありません。

 一般的には、日本的な価値観でいうと、自分のことをおおっぴらに話すことは下品とされています。そういう奥ゆかしさが地方に根強いことも、隠していることがあるから知りたいという需要につながっているのかなと思います。ついでにいうと、他人のことを詮索することも、下品な行動には変わりありません。前述した映画の主人公の行為がそれですが、映画ではなんか知的でかっこよく描かれます。

 秘密に値段をつけるとすれば、よりたくさんの人が知りたいと思っている秘密は、価値が高いといえます。また、誰にも知られていない情報、より希少性のある秘密も価値が高いはずです。秘密は物品とはちがって、その情報を知ることだけで価値が享受できます。今はインターネットがあるので、情報を欲しい人と与えたい人がいれば、遠く離れていても一瞬で秘密を伝えることができます。ただ安定供給はできないので、ビジネスにするのは無謀な気がします。ていうかたぶん、なんとか法でひっぱられます。

 秘密の価値をうまく利用した例としては、海外にPostSecretというサイトがあります。

PostSecret

世界中から送られた、自分の秘密が書かれたポストカードを公開しているサイトです。こちらのまとめサイトでいくつか日本語で紹介しています。

他人の秘密の告白が見れるPostSecret 50万通のはがきに描かれた秘密 - NAVER まとめ

 このごろは、秘密の価値感も多様化している感じがします。NASAエリア51で宇宙人を捕獲していたという秘密を高いコストとリスクを払ってでも知りたい人もいれば、ももクロの秘密を知りたいモノノフもいると。

 個人的には、隠し事をしているとストレスがたまるのでなるべく秘密は持ちたくない性分ですが、秘密そのものはいいことでも悪いことでもありません。ある日へんな探偵がやってきてあなた小学生のとき万引きしましたよねみたいなことをいわれるのは嫌なので、自分や家族の安全を守るためには、秘密を保護するすべを身につけることもちゃんとした大人としては必要なのかもしれません。