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代わりを探すのがめんどくさい

安定供給できないものが世の中にはいろいろあって、そしてそれらは安定供給できないが故に、スーパーとかコンビニには売っていない。たとえばスーパーにはあれほど日本酒が並んでいるのに、まともな酒造でつくったまともな日本酒はほとんど置いていない。ちゃんとした製法と原料米でつくった日本酒というのは製造量に限りがあるし、その年によって出来も違うものだから、同じものがいつでも手に入るわけではない。だから販売できるのも、百貨店にある専門店やそれなりの酒屋といった、限られた店になる。わたしはスーパーに紙パックで売っているような日本酒を飲むと顔や首に湿疹ができる。若いころはそういうものしか飲んだことがなくて、味も甘ったるく酔ったおじさんが発する臭いと同じで嫌いだった。日本酒がうまいものだとわかったのは30近くになってからだ。考えると10年も損をしたことになる。

専門店といっても、日本酒はそんなに高いものではない。一升瓶で三千円程度で十分すぎるほどうまいものが手に入る。コストパフォーマンスではワインなんかよりもずっといい。あまり日本酒を飲んだことのない人のために書いておくと、何県で作られた酒であれ、原料米が山田錦100%の純米酒を選べばとりあえずはそんなに外れないと思う。決して、大手メーカーの山田錦という銘柄の日本酒のことではない。それから日本酒は基本的に冷やして飲むものだ。冷蔵庫で冷やした純米酒を口の広いコップに注いで口にふくむと、果実のような匂いがする。ワイングラスにいれてもいい。いつもは獺祭とか、作、出羽桜、楯の川あたりの香りのいい純米酒を目当てにでかけるのだけど、さっきも書いたようにいつも同じものが売っているとは限らない。そういうときは代わりに違うものを選ばないといけない。新しい銘柄を発見できるという期待感もあるが、失敗したくない、なるべく自分の好みの酒に近いものを選びたいという気持ちのほうが強い。できることなら、自分の好きな銘柄が年中いつでも手に入るという状態のほうがありがたい。ネットで探せばいつでも手に入ることは手に入るのだが、たいていは馬鹿みたいな値段がついているので手を出す気になれない。今見たら、ふだん2,800円ほどで買っている獺祭純米大吟醸はアマゾンで10,780円だった。これにさらに送料がかかる。

これがたとえばスーパーに売っているキャベツとかそういうものであれば、北海道のキャベツがなければ茨城県のにしようとか、キャベツがなければレタスでもいいんじゃないかとかいうことになる。群馬県の佐藤さんがつくったキャベツじゃないと駄目というのはよっぽどキャベツにこだわりがあって、そのキャベツが特別な場合だけだ。つまり、バリエーションがあって、違いが明らかに分かるものであるほど、好みに左右される。カップラーメンとかがそうだ。世の中にはペヤングがなくなると路頭に迷う人がいる。でもある日突然ペヤングが一斉にあらゆる店舗から姿を消すことはそうそうない。

代わりを探すのがわずらわしいものというのはほかにもある。たいていは安定供給が難しいものであるけど、トレンドの移り変わりが激しいものもそうだ。衣服なんかはたいていその年のシーズンが終われば同じものは作られない。ユニクロであってもそうだ。わたしは服を買いに行くのが嫌いではないが好きなわけでもなくて、特に店員から欲しくもない服を勧められたり試着したりするのは煩わしいので、気に入っている服とか靴とか、古くなっても同じものが欲しいと思ったりするけど、同じものが置いてあることはない。だから毎年何回かは、似たような服を探すために店員から欲しくもないものを勧められたり試着したりしないといけない。さすがに年中リーバイスの501にヘインズのTシャツにコンバースのハイカットを履いているわけにはいかないけど、本当はそんな感じで過ごせたらいいのにと思う。

それでもまだ酒や服なんかは、同じ店に行けば同じテイストの商品に出会える可能性は高い。一番代わりを探すのがやっかいなのは、人だ。美容室や歯医者、マッサージなどは、店ではなく人を目当てにして行くものだ。本当に信頼している人が辞めてしまった場合、その店に通い続ける理由はなくなる。お願いだからわたしが髪を切ってもらっている美容師さんはやめないでほしいと祈っている。辞めないでいただけるなら、半年に一回くらいよくわからないヘッドスパとかをやってみてもいい。

ものやサービスが溢れて好きなだけ選べるようになると、消費者は欲しいものを選ばないといけなくなる。よいものを選ぶためにはそれなりに勉強したり、経験したり、順番を待ったりしないといけないものもある。インターネットは手助けをしてくれるけど、欲しいものを選んでくれたりはしない。そういうわずらわしさを積み重ねることで、少しだけ人生が豊かになることもある。