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未来を予想するということ

photo by tsevis

ずっと前に、雑誌でスティーブ・ジョブズのインタービューを読んだことがある。まだAppleに復帰する前のNeXTにいたころだから、1990年代後半のものだ。内容はうろ覚えだが、"Post-PC Device"、つまりパソコンの次のデバイスはなにかという話題だった。当時はマイクロソフトが発表したWindows 95が爆発的に流行して、インターネットが家庭に普及し始めたころだった。Appleの製品は一部のマニアかデザイナーくらいしか使っていなかった。ジョブズはそのインタビューで、家庭に据え置くボックス型の、インターネットテレビのようなものが主流になるのではないかというようなことを話していた。当然のことながら、iPhoneやiPadのような携帯情報端末の話題はなかった。ジョブズはそれからAppleのCEOに復帰し、iPhoneが発売されたのはインタビューから10年たった2007年のことだ。その後、iPadが発売された2010年に、ジョブズはPost-PCの時代が到来したことを宣言した。インターネットテレビについていえば、Apple TVやChromeCastのようなそこそこヒットした商品が生まれているものの、成功しているとは言いがたい。ただ、ジョブズはAppleに復帰するずっと前から、PCの次のデバイスがなにかということを考え続けてきたことがわかる。

Steve Jobs proclaims the post-PC era has arrived - TechRepublic

ジョブズのインタビューが行われたのと同じころ、駆け出しのプログラマーだったわたしは、会社の同僚と、10年後に流行するテクノロジーはなにかということを話し合ったことがある。わたしは、PalmやZaurusみたいな携帯情報端末(PDAと呼ばれていた)が流行る、といった。当時のPDAはモノクロの液晶画面をスタイラスで操作するおもちゃみたいなもので、日本語の入力さえ満足にできなかった。同僚は、PDAは大きすぎて車社会では使えるものの、電車通勤の日本では流行らない、携帯電話がもっと高機能になると思う、といった。結果的にいうと、どちらの予想も当たっていて、どちらの予想も外れていたことになる。PDAが普及しそうだということが分かっていても、携帯電話が高機能になりそうだということが分かっていても、誰もがスマートフォンを持つ未来を予想するのは意外と難しいものだ。スマートフォンはPDAみたいでもあり携帯電話みたいでもあるが、本質的にはどちらとも違う。PDAに電話機能をつけたものの完成形はWindows Phoneであり、携帯電話を多機能化したものはBlackBerryだ。どちらもすでに市場から姿を消している。

スマートフォンをスマートフォンたらしめているのは、タッチインターフェイスだったりアプリマーケットだったりするのだけど、どちらもPDAや携帯電話の文脈の延長線上にはないものだ。でも、スマートフォンが発明されるであろうことを予想できなかったことは、恥ずかしいことではない。スティーブ・ジョブズのような業界の先端にいる天才でも予想できないことを、かんたんに予想することはできない。せいぜい、Appleの株を買って儲けた人たちがいるくらいだ。

それでも、近い未来を予測して行動することはそれなりに意味がある。これからなにが流行するかわかっていれば、その分野に投資をしたり、就職したり、関連のビジネスを行うことで、そうでないことをやるよりも成功する可能性が高くなる。ただ、その仕事をやりたいかどうかは別の話だ。誰もが白いたい焼きを売ったり、ソーシャルゲームを作りたいわけではない。ただ、これから地方で本屋をやりたいという人はそうとうに工夫して儲かる方法を考えないといけない。

モバイルの次はウェアラブルデバイスの時代だといわれている。それがどういうものになるかはわからないが、国内メーカーが販売するスマートウォッチのようなものはさっぱり売れないだろうと思う。それは今のモバイルデバイスの延長線上にあるからだ。前に、現代は所有するコストが高いので、多くの商品がレンタルかサービスでまかなわれるようになると書いた。この流れは当分とまらない。もうすでにどんな場所であっても、無線でインターネットにつながることができる。飛行機でもWiFiが使える。無線通信はもう当たり前の技術になった。技術的にはあらゆるデバイスが無線でつながることができる。そうすれば、身の回りにあるさまざまなデバイスとスマートフォンとを無線で接続してサービスを受けることができる。

先日、世界初の完全にワイヤレスのイヤホンが、Kickstarterで資金調達したというニュースがあった。PDAからスタイラスが消えたように、今まで当たり前にあったものがなくなったということだ。未来へのヒントはこのへんにある気がしている。

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