正義の対義語は不義なんだ。だけど世の中には正義の味方しかいない

ブレイキング・バッド SEASON 1 - COMPLETE BOX [Blu-ray]

ブレイキング・バッド SEASON 1 - COMPLETE BOX [Blu-ray]

Huluでブレイキング・バッドというドラマを見ている。海外ドラマはこれまでひとつもまともに見たことがない。ロストも24もプリズンブレイクも最初の2話くらいで挫折した。ブレイキング・バッドはほとんど毎日見ていてシーズン3の途中まできた。1話冒頭の、パンツ一丁でガスマスクをかぶったおっさんが猛スピードでトレーラーを運転しているシーンからして並のドラマではないことがわかる。アンソニー・ホプキンスやステーブン・キングが絶賛したというのも納得できる。ブレイキング・バッドのいいところは、オカルトと国家陰謀が出てこないことだ。ヒットするドラマはたいていそのどちらかだけど、わたしは好きではない。幽霊もテロリストにも出会ったことがないせいかもしれない。

主人公の化学教師は、癌の宣告を受けたことをきっかけに覚せい剤の製造を始める。売人の元締めを地下に監禁して殺したり、覚せい剤の原料を盗んだり、弁護士と組んでマネーロンダリングをしたりする。タイトルのとおり、平凡な高校の教師だった男が、家族に金を残すために道を踏み外す、というのがストーリーの軸になっている。

前回、不正をするリスクはどんどん上がるからまっとうに生きたほうがいいというような記事を書いた。ここでいうリスクとは、逮捕されるとか、職や社会的立場を失うというようなことだ。ブレイキング・バッドの主人公の場合は、余命が残されていないから、これらのリスクはリスクではない。避けなければならないのはお金を失ってしまうことだけだ。物語の主人公というのは、基本的に正しいことをする。正しいことをしなければ観客は共感しないからだ。主人公の行動や考え方が共感されない物語というのは物語として成り立たない。だから何を考えているかわからない猫が主人公の物語みたいなのは滅多なことがないかぎり作られない。

では正しいこととはどういうことか、と考えてみようと思う。がそんな哲学的な難しいことをひとりで考えるよりも、サンデル教授に聞いたほうが早いのでネットで調べてみた。あれだけテレビで正義とはなんぞやみたいな講釈をしてきたんだから、たぶんわたしが30分考えるよりも深い結論に至っているに違いない。そうじゃなかったらただの議論好きのおっさんだ。サンデル教授によると、正義とは、幸福、自由、美徳の3つの価値観から展開されるものらしい。わたしの解釈も勝手に付け加えてみる。

幸福の最大化

最大多数の人が最大の幸福を受けられるということ。

= 合理性を追求すること。みんな幸せになれるのは正しい。

自由の尊重

人びとが強制を受けたり行動が制限されたりしないこと。

= 多様性を認めること。自由に選択できることは正しい。

美徳の促進

道徳的、人道的、宗教的な観点への配慮があること

= わびさびを重んじること。かっちょええのは正しい。

これらは時には相反する価値観であるため、どの価値観を優先するかは配分は時と場合によるし、視点をどこまで上げて考えるかという問題もある。地球人にとって正しいことでも、火星人にはそうでないかもしれない。まったく逆のことがどちらも正しいということもあり得る。それでも、法律やルールというのは(建前上は)正しくなければならないものだから、このような価値観のもとに制定されるはずだ。つまり、基本的にはルールに従っておけば正しいことから大きく足を踏み外すことはないはずだ、たぶん。

正しくないことをすると、罰を受けることがある。では、正しいことをするとどんないいことがあるかというと、共感してくれる人からの協力を得られたり、幸福感を得られたりする。ブレイキング・バッドの主人公には、罪の意識はない。自分が正しいことをしていると信じている。実際は覚せい剤を買った人が犯罪を犯したり、オーバードーズで死んだりしているはずだけど、そこには触れられていない。それを除けば、主人公は刑務所に行くこともなく、家族にお金を残すことができる。きわめて合理的な行動で、周りの人の自由を奪ったりもしていない。生徒からもいびられる冴えないおっさんが家族のために麻薬王になっていく様はある種の美徳を感じたりもする。

人は誰もが正しいことをしようとしている。でも自分の行動が正しいかどうか自信がもてないこともある。仲間を裏切るような行為をするとき、これはモンキー・D・ルフィならやるだろうかと考えてみればいい。号泣した議員は、カラ出張をするときに島耕作ならやるだろうかと考えればよかった。ただ、これはウォルター・ホワイトならやるだろうかと考えるのはやめておいたほうがいいかもしれない。

今日もブレイキング・バッドの続きを見る。