欲しいものを3ついえ、そう石仮面はいった

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小学生のころ、コロコロコミックとかジャンプとかの漫画雑誌にはかならず通信販売の広告が掲載されていた。あるとき、わたしは広告がうたう商品の魅力に惹かれて、毎月祖母からもらっていた1500円の小遣いをため、こっそり商品を購入することにした。当時はお金を支払うのに、料金分の切手を購入して送るのが一般的だった。それを知らなかったわたしは現金をそのまま封筒に入れて送ったら、家まで戻ってきて祖母に一発で見つかった。祖母は特にとがめるでもなくそのお金で切手を買ってきてくれた。それに味を占めたわたしはそれからも何度か通販に手を出した。そのたびに祖母にあんたまたしょうもないもん買うたなとたしなめられることになる。

当時通販で購入したのはこんなアイテムだった。

椰子の実が採れるブーメラン

今だとブーメランというと競技用の十字型で軽いものを想像するが、これはターザンが使うような、V字型のでかくて重いやつ。説明書には思い切り投げると戻ってくると書いてあったが、そんなものを思い切り投げる場所や勇気はなく、戻ってきたとしても怖くてぜったいキャッチできない。そもそも近くに椰子の木なんかなかった。

つけるだけで自転車が2倍速くなる玉

モーターが内蔵されたような機械仕掛けのものを想像していたが、届いたのはピンポン玉くらいの大きさのふたつの鉄球だった。後輪のスポークに取り付けると玉の重みで遠心力がつき、一度スピードができると速度が落ちにくくなる。その分ペダルは重くなるし決して2倍速くなるわけではない。「ハイピッチ」という名前だった。

空手の達人になれる板

それを壁にとりつけて毎日こぶしで殴っているだけで筋力が増して空手の達人になれると書いてあった。なんかすごいマシンなのだろうと思っていて、見たらなんか筆箱くらいの大きさのゴムの板に壁にくくりつけるひもがついていて、特別変わったしかけがあるわけではなかった。空手の達人になりたかったので壁にとりつけて数日間殴ってみたが達人にはなれなかった。空手を習ったほうがよかったのかもしれない。

一瞬で人を倒せる本

これを読むだけで一瞬で人を倒せるようになるという広告に惹かれて購入。10ページくらいの薄い本で、もはやなにが書かれてあったのかも覚えていない。こどもながらなんとなく、これをやっても人は倒せないなと冷静に思ったのは覚えている。

歯が真っ白になる歯磨き

別に虫歯があったわけでもないのになぜそんなものを買ったのか不明。こどものときからぱかぱか煙草を吸っていた兄が買えといったようなきがする。使ってみたがもともと歯が汚いわけではないので効果はよくわからなかった。これは今でもたまに売ってる。

忍者の手裏剣

鉄でできた手裏剣。伊賀忍者用と甲賀忍者用があった。投げたりするとマジで危ない。一時期本気で忍者になろうと思って濡れた半紙の上を走ったり風呂に潜ってストローで息をする練習をしたりした。あと柿の種を植えて毎日その上を飛び続けていると、それが背丈くらいまで成長したころにはものすごいジャンプができるようになると本に書いてあった。毎日植えた場所を飛んだが芽すらでなかった。

寝ていてもテレビが見られるメガネ

説明文には離れた場所にあるものが見られるというようなことが書かれていて、遠くに設置したカメラからメガネに映像が送られてくるようなハイテク機器を想像していた。悪用厳禁の文字に胸が躍った。これは一番高くて、確か5000円くらいした。届いたのは単なる斜め向きに鏡が取り付けられたメガネで、かけると真上が見えるというものだった。なんのカモフラージュもないので、変なメガネをかけているのはバレバレだ。さすがにこれを見たときはショックで手が震えた。大人になってからクライミングのショップでこのメガネが売られていて、実はビレイグラスという、立派な商品だった。クライミングをするときに、下でロープを持つ人が長時間見あげなくても済むように使うものだ。当時は日本にクライミングをする人などほとんどいなかったから、海外でこれを見つけた業者がわたしのようなアホなこどもに売るために輸入したのかもしれない。

当時は、他にもブルーワーカーとか、ぶら下がり健康器とか、おもりの入ったリストバンドとか、健康器具がなぜかたくさん通販で売られていた(今でもそうかもしれない)。購入したものを見ればわかると思うが、わたしは体を鍛えたいわけでも健康になりたいわけでもなかった。広告が載っている漫画の主人公みたいに一瞬で人を倒したり、ブーメランで椰子の実を採ったり、すごいスピードで自転車に乗ったり、遠く離れた場所のものを透視したりしたかっただけだった。通販のページに載っているのはドラえもんの道具みたいにきらきらして見えた。今だったら悪魔の実に見えたかもしれない。そんなものが切手で買えるという幻想は何度も打ち砕かれた。クーリングオフという制度の存在すら知らなかった。

わたしは小学生のときに、通販の商品に添えられたきらきらした宣伝文句が嘘であることを学んだ。学ぶための費用はこどもにとっては大金だったが、今思えばたいしたものではなかった。おかげで大人になっても、ビデオのモザイクが消えるアダプターとか幸運を呼ぶ壺みたいなものを購入せずに済んだ。

今はどんなものであれ、購入するまえに、それがどんなものなのかほぼ正確に想像することができる。だけどときどき、なんだかすごそうだけど見たらがっかりするほどしょうもない映画を見たりする。そんなときはまただまされたな、へへみたいな気分になるけど、決して鏡のついたメガネが届いたときみたいに打ちひしがれたりはしない。

本当は、どこか知らないところで、小学生のころに欲しかったようなきらきらした道具が売られていることを願っていたりする。

たとえばこんなところに。 https://www.rakunew.com/